LAS Production Presents

 

 

 

Soryu Asuka Langley

 

in

 

 

 

starring

Shinji Ikari

 

and

Misato Katsuragi

as Beauty Woman

 

 

Written by JUN

 


 

Act.1

MISATO

 

-  Chapter 3  -

 

 

 

 

 

 

「センセ、よかったのう。昼から美人とデートでけて」

「ご、ごめん」

「その間、わしらは大変やったんやで、ホンマ」

「まあ、そうぼやくなよ、トウジ。シンジがあの金髪美少女と仲良くなるのは俺は大歓迎だ」

「なんでやねん!」

 4時ごろになって帰ってきたシンジに、早速トウジが噛み付いた。

 仕事で疲れたというよりも、アスカとミサトの二人と一緒に行動していたことが腹立たしいようだ。

 簡単に言うと、嫉妬。

 頭に血が上っているトウジに、ケンスケは噛んでふくめるように説明する。

「おいトウジ、覚えているか?」

「何がやねん」

「あの金髪美少女は一人だったっけ」

「ああん?そりゃ…友達がおったやんけ」

「お前は、3人の中でどの子が好みだ?」

「おう、わしはあのうるさいのを宥めとった優しそうな子がええのう」

「シンジは?」

「えっと…その…」

「相変わらずはっきりせんのう。センセは行きがかり上、金髪を担当せい」

 トウジがそう決め付けた。

 そのトウジの発言には明らかな意図があった。

 優しそうな子はわしの担当や!手ぇ出すんやないで!

 という見え見えの発言なのだが、シンジだけは全く気付かない。

「ええっ!でも、アスカ、怖いしなぁ…」

 逡巡するシンジに、ケンスケがニヤリと笑いかけた。

「ふ〜ん、あの金髪娘はアスカって名前なんだ」

「うん、アスカって…」

 何気なく二人の顔を見たシンジは、二人に強力な武器を渡してしまったことを知った。

「へぇ、もう名前で呼んどるんや」

「しかも呼び捨てだぜ」

「だ、だって、そう呼ばないと怒るんだ。凄く怒るんだ」

「これはこれは鈴原殿。二人は名前で呼び合う仲にまで進展したようでござるよ」

「ふむふむ、相田氏。まだ知りおうて数時間やのに、碇氏にしたら手の早いこって」

「ち、違うよ。名前で呼び合うなんて!」

「何言うとんねん。センセは、しっかりアスカって言うとるやないか」

「アスカは、僕のことを馬鹿シ…」

 シンジの声はどんどん小さくなった。

「何やて?」

「ば、馬鹿シンジだよ!」

 真っ赤な顔でシンジは叫んだ。

 一瞬の間を置いて、トウジとケンスケは爆笑した。

「馬鹿シンジやて!」

「こいつはいいや、馬鹿シンジか」

「笑うなよ!」

 シンジは怒った。

 怒りながら、不思議だった。

 アスカに馬鹿シンジと言われても、胸が痛いだけで腹は立たない。

 だがこの二人に言われると、猛烈に頭に来た。

「あ、すまん、シンジ。いや、あまりお前の顔がおかしくて」

「そない怒りなや。まんざらでもないくせに」

「トウジ!」

「まあまあ、あとでいいものやるから、そんなに怒るなよ」

 肩を叩いたケンスケに、シンジが怪訝な顔をした。

 なんだろう?

「楽しみにしておけよ、シンジ」

 ケンスケの笑顔に首を傾げていると、目の前が真っ暗になった。

「うわっ!何?」

「君はそいつをミサトさんの家に届けてくれ」

 シゲルの声に顔を覆っているものをとってみると、ミサトの帽子だった。

「そんなんずっこいですわ。なんでこいつばっかりええ目に!」

「へえ、トウジ君も手伝ってあげるのかい?美しい友情だ」

「はいな、わしらはどんな時でも助け合おうって誓うとるんですわ」

「ほう…じゃ、リヤカーもう1台用意しようかな?」

「はい?リヤカーって…」

「あの人、一人でどうやってあんなに呑めるんだ?」

 

 数分後、友情をあっさり放棄したトウジに見捨てられたシンジは、

 たった一人リヤカーを引いてミサトの家に向かっていた。

 荷物はえびちゅの缶モノをダンボールで20ケース。

 それに、大きなつばの黒い帽子だ。

 スーパーアオバの超上得意客葛城ミサトの電話注文。

 いつもならシゲルが軽トラックで配達するのだが、今日は…というよりも、今は絶対に行くわけがない。

 5時23分の列車で愛しのマヤ嬢がやってくるのだ。

 当然シゲルはそのお出迎え。

 浜茶屋はベテランアルバイトと関西弁の新人に任せている。

 さすがに関西人は焼きそばに熱中している。

 こと調理に関してはベテランよりも当てになるようだ。

 それにトウジが張り切っているのは、ある要因があったことは否めない。

「はいよ!焼きそばあがり!」

「おいおい、いくらあの子が来てるからって、そんなに張り切るなよ」

「そ、そんなんとちゃうわい!」

「そんなに力むなよ…あ、でも、あの金髪がいないぞ」

「ほい!その片割れの方のホットドック上がりや!」

「了解」

 ケンスケはホットドックのお皿を手に、彼女たちの方へ向かう。

 そして、栗色のショートカットの女の子に声をかける。

 どうやら、ケンスケはこの子をターゲットにしているようだ。

「はい、ホットドック」

「ねえねえ、あの子は?」

「あの子って…シンジのこと?」

「そうそう、シンジ君!いないの?」

「ああ、アイツは配達中」

「なぁんだ、残念。せっかく顔を見に来たのになぁ」

 ケンスケはなけなしの自制心を制御して核心を突いた質問をした。

 そして、栗色の髪の毛の女の子…霧島マナはあっさりと答えるのだった。

「へぇ、君はシンジが好みなの?」

「うん、あんな感じの子、大好き!」

 ケンスケは微かに聞こえる海のざわめきに誓った。

 帰ってきたらシンジの頭を叩いてやる。

 1発じゃ気がすまない。3発は叩いてやる!

「そ、そうなんだ…」

「うん、そうなの」

「そうなんだ」

 引き攣った笑みを浮かべるケンスケはマナの眼中にはないみたいである。

「あっ!」

 突然、マナが大声を上げて立ち上がった。

「どうしたの、マナ?」

「アスカのヤツ、もしかしたら…?」

「アスカって、金髪の子?」

「そうそう!そのアスカよ!アイツ絶対、シンジ君の後をつけていったんだわ」

「まさか。アスカが男の子に興味なんか……」

「でも、あの水着引っ剥がし事件で、アスカの女が目覚めたのかも!」

「だったら、よかったじゃない。私たちの計画が順調に進むってことに…」

「相手が悪いのよ!シンジ君はダメ!彼は私がいただくの」

「いただくって…」

 思わず呟いたケンスケに、マナはギロリと睨みつけた。

「何、立ち聞きしてるのよ。あっち行け!」

 好意を抱き始めた女の子に汚い言葉を吐かれ、

 ケンスケの対シンジ反感度は急激にアップした。

 しかし、その反感度は3歩も歩くと急速に薄れた。

 そうだ、シンジとあの金髪をくっつけたらいいんだよ。

 二人をラブラブにしてしまって、トウジとあの女の子もカップルにしてしまったら、あぶれモノ同士が……。

 こいつはいける!

「こら、そんなとこでガッツポーズしとらんと、はよ焼きそば持っていかんかいな」

「お、おう!」

 さりげなくケンスケを追っ払ったトウジは、そばかすの少女の前に皿を並べた。

「え、あ、あの、私…」

 そばかすの優しげな少女…洞木ヒカリが注文したのは、アメリカンドックが一つ。

 それなのに、彼女の前に並べられたのは、焼きそば、ポップコーン、イチゴシロップかき氷に、チキンナゲット。

「ああ、すまんの。アメリカンドックがきれてしもうて、ま、サービスっちゅうやっちゃ」

「サ、サービスってこんなに!変なんじゃないの?」

 マナが早速茶々を入れた。

 トウジが睨みつけると、マナは白々しく手を打った。

「あ、そうか。この関西弁のお兄さんはヒカリを思し召しなんだ。なぁるほど!」

「な、な、な、何を!」

 トウジはうろたえ、ヒカリは赤面して俯いた。

 マナはこの二人をくっつけてしまおうと決めたのだ。

 この二人が仲良くなると、当然自分とあの優しげなシンジ君との距離も断然短くなる。

 ま、二人とも純情というか単純そうだし、少し背中を押してあげたら、すぐにラブラブになってしまいそうだ。

 まずはグループ交際から始めようというわけだ。

 そう決めたマナは恋のキューピットになりきって、二人の会話を取り持っていく。

 当然、トウジがこのテーブルにいついてしまうと、すべての負担はケンスケの肩にかかってしまう。

 ケンスケは心の中で叫び声をあげながら、いつか自分にめぐってくる(はずの)幸福を想い続けた。

 そうしないとぶっ倒れてしまいそうになるからであった。

 しかしながら、客観的に見ると一番分が悪そうなのはそのケンスケなのだが…。

 シンジ!トウジ!がんばってくれっ!俺の幸福のために!

 

 こちらはリヤカーを引っ張って、ミサトのコテージに到着したシンジである。

 もちろん、ケンスケの想いなど彼には届いてはいない。

 自分のことだけで手一杯だ。

「あの…お届けものですが…」

 ノックをして、声をかけても返事はない。

 応用力の乏しいシンジは困り果ててしまった。

 まさかこのまま戸口にダンボール箱を積み上げたまま帰るわけにはいかない。

 ところがノブを廻してみると手ごたえはなく、くるっと廻る。

 首だけを中に入れてみると、中は薄暗がりだ。

「もしも〜し」

 やはり答えはない。

 鍵もかけずに物騒だなと思いながらも、

 シンジは中にダンボールを運び入れて、その状態で帰ろうと決意した。

 テーブルの横に缶ビールの詰まった箱を積み重ねる。

 リヤカーを引っ張り全身を汗に塗れたシンジだったが、この動きも結構重労働である。

 何しろ、日頃から精神も肉体も鍛えていない彼である。

 玄関からテーブルの横まで、彼が動いた床には汗が落ちた跡が水玉模様を作っている。

 舌を出し、荒い息を吐き、ようやく運び終わったシンジは、最後に大きなつばの黒い帽子をテーブルの上に置いた。

 その時、その場所で彼はミサトの胸に抱きしめられたことを思い出した。

 気持ちよかったなぁ…。

 そう顔が綻んだシンジの耳に床が軋む音が聞こえた。

 振り返ると、ミサトが立っていた。

 バスタオルで身体を巻いただけの姿で。

「あらン、シンちゃん。持ってきてくれたの?アリガト!」

 シンジは硬直化してしまった。

 いや、下半身は反応していない。

 それ以上の衝撃を受けてしまったからだ。

 湯上り美人。

 しかも、バスタオルだけ。

 ほんの数メートル先に、その美しい姿のミサトがにこやかに立っている。

「あ!帽子も!すっかり、忘れてた」

 ミサトはテーブルに近づく。

 ということは、シンジに接近しているということになる。

 碇シンジ、その時ようやく十代の男性として覚醒した。

 むっくりと自己主張を始めた一器官に、シンジは慌てた。

 こ、こ、こんな場所で!まずいよ、まずすぎる!

 あ、でも胸元が見えそう…。

 ミサトさん、元刑事って言ってたよね。

 もし僕が狼になってもあっさり撃退されるだろうな…。

 あわわわっ!何考えてんだよ、僕は!

 ああ…濡れた髪の毛が肩に張り付いて…凄い色気…。

 触りたいな、あの肩に、そして胸にも…。

 シンジが理性をなくし始めたその時、

「ミサト、いるっ?!」

 玄関を物凄い勢いで開けて入ってきた金髪の少女がいた。

「あああっ!何してんのよ、アンタたち!」

「あ、あ、あ、あ、あ、アスカっ!」

 大声を上げたアスカに、シンジは度肝を抜かれた。

 その瞬間に青年の主張は敢え無く幕を閉じた。

「何よ、もしかしてエッチしようとしてたんじゃないでしょうね」

「あら、わかったぁ?」

「み、ミサトさん!」

 へらへら笑うミサトにシンジは慌てる。

 アスカに誤解されたら、とんでもない目に合わされそうだ。

 シンジの本能はそう教えていた。

「へぇ、じゃ私ってお邪魔虫なわけ?どうなの、馬鹿シンジ!」

「そ、そんなことないよ!来てくれて助かったんだ」

 これも嘘ではない。

 アスカが来襲した時、少しホッとしたのも事実だからだ。

「ふ〜ん、そうなんだ」

「そ、そうだよ」

 ミサトは可笑しかった。

 明らかにアスカはタイミングを計って入ってきている。

 まるで、凶悪犯の隠れ家に踏み込んだ時のように…。

 そして、彼女の手は無意識に胸の谷間を押さえていた。

 捜査係のエースとしての最後の仕事になってしまった、あの時に受けた銃痕を。

 自分の手の場所に気付いた彼女は、わざと明るく言った。

「シンちゃん、シャワー浴びなさい。汗びっしょりよぉ」

「え?でも、着替えなんか持ってません」

「シャツなんかハンガーに引っ掛けてたらすぐに乾くわよ」

「あ、でも…」

 本当はその申し出は嬉しかった。

 気持ち悪いくらい汗をかいていたからだ。

 シンジはアスカを見た。

「さっさと入ってきなさいよ!」

「いいの?」

「大体、どうして私に断らなきゃいけないのよ?」

「あ…」

 シンジはどうしてアスカの許しを求めたのかわからなかった。

 アスカはシンジがほぼ完全に子分化していることに、心の中で大きく笑った。

 よしよし、いい子よ、馬鹿シンジ。

 この夏は楽しくなりそう!

「ほらほら、早く入ってきなさい。出てきたら冷たい…」

「ビールはダメよ。ほら、私スポーツドリンク持ってるから、これ飲ませてあげる」

 アスカは後に隠していたペットボトルをテーブルの上に置いた。

 ボトルについた水滴がテーブルに流れ落ちる。

「まだ冷たいから気持ちいいわよ」

「あ、ありがとう。じゃ、僕…」

「バスタオル、畳んでるの使ってねン」

「はい、お借りします!」

 浴室の方に姿を消すシンジの背中を見送っている、そのアスカの顔をミサトは覗き込んだ。

「随分と都合よく持っていたわねぇ、スポーツドリンク」

「へ?」

 次の瞬間、アスカの顔は紅潮した。

「こ、こ、これは、たまたま!」

「そうねぇ、汗びっしょりで配達している男の子にスポーツドリンクかぁ。う〜ん、青春!って感じよねぇ!」

「だ、だ、だからっ!」

 アスカがシンジの後を尾行していた事など、元刑事にはバレバレである。

「大丈夫よ。誘惑なんかしないから」

「でも!こんな格好で男の前に出てくるなんて!」

「ははは!拳銃でも持ってない限り、私に勝てるわけないわよ!」

 その時、ミサトの顔は刑事の顔だった。

「そ、そうなの?」

「まあ、アイツってフィアンセがいなかったら、シンちゃんの一人や二人、簡単に食べちゃうわよ」

「げっ!」

「いただきまぁす!って感じで、押し倒して…」

「だ、ダメ!そんなことしちゃっ!」

 アスカは言ってしまってから口を押さえた。

 そんな彼女の様子にミサトは可笑しくて仕方がなかった。

「そっか、アスカはシンちゃんが好きなんだ」

「ば、ば、馬鹿っ!あんなスケベなヤツを好きになるわけないでしょ!」

「じゃ、どうして、そんなにむきになんのかなぁ?」

「そ、それは…」

 シンジは私の子分だからよ!とは言えない。

 そんな事を言ったら、ミサトにお子様だと笑い飛ばされそうだからである。

「あ、そうよ!レイプは犯罪だからよ!」

「はい?」

「だって、ミサトの方が強いんだから、そのミサトにアイツが食べられちゃったら、立派なレイプじゃないの!」

「あはは!そっか。逆レイプってヤツね。なるほど、そうきたか。くっくっく…」

 自分からレイプなどと言ってしまい、アスカは気恥ずかしくなり、

 ミサトに顔を背けると、浴室の扉の方へずかずか歩いていった。

「ちょっと、馬鹿シンジ!中でいやらしいことしてるんじゃないでしょうね!」

 そう大声で叫んだ次の瞬間、中からカラカラと洗面器が転がった音がした。 

 バスタブにくっついていたあるものをしげしげと眺めていたシンジが慌てふためいたのだ。

 再び、アスカの罵声によってシンジの青年の主張は炸裂寸前で阻止されてしまった。

 人様の浴室で…などということを考えるほど、碇シンジは人間ができていない。

 性的な経験は皆無で知識もほとんどないアスカは、シンジがそんな事をしていたとは全く知らない。

 先ほどの発言はミサトの口撃逃れのためのものに過ぎない。

 だから、もし浴室におけるシンジの行為に気付いたなら彼は半殺しにされていたことだろう。

 ガキ大将であるアスカ親分はなにぶん性的には未開発なのである。

 子分の性的行為は彼女にとっては許すことはできなかったのである。

 ただし、ミサトに言わせれば、それは親分子分だからではなく、相手を意識しているからだと看破するであろう。

 

 この建物の中で、アスカに芽生えつつある乙女の恋心に気付いているのは、本人ではなくミサトただ一人だった。

 シンジが浴室で何をしていたのかも想像はつく。

「いいわねぇ、ホント」

 仁王立ちして浴室へと雄たけびを上げている、紅毛の美少女の背中を見ながらミサトは頬を緩ませた。

 こいつはいい酒の肴になるわ。

 早速冷蔵庫に向かう、バスタオル姿のミサトだった。

 冷蔵庫の扉を開けようとした時、その扉に貼られている加持の写真が目に入った。

 二人で肩を抱き合っている写真。

 バックはここの海岸で、撮影したのはリツコだ。

 冷静な顔して、加持にもっと笑いなさいよって言ってたっけ、リツコ。

 へへへ、こんな写真をあちこちに貼ってるのをアイツが知ったらどんな顔するかな?

 帰国する前に剥がしておかないと、一生からかわれちゃうわよね。

 ミサトは写真の加持の顔を指先で撫でる、その小さく写った顔に唇を寄せた。

 もうすぐ、加持ミサトかぁ。

 ビールの本数減らされちゃうかも!

 ミサトは扉を開け、数本の缶を胸に抱えた。

 今のうち、今のうち!

 

 かえりみち。

 

 シンジはリヤカーを引いている。

 当然の如く、荷台にはアスカがいる。

 しかも、座っているのではなく、彼女はそこに仁王立ちしている。

 あの名作洋画『ベン・ハー』の戦車競技を想像していただければ、雰囲気はつかめると思う。

 シンジは疲れている所為かブツブツ言っているが、もしアスカの姿を客観的に見ることができたなら、美しいと思ったはずだ。

 夕陽の中を浜風に紅茶色の髪を靡かせて立つ少女。

 夕焼けの赤さがアスカの髪の毛の色をさらに赤く染めている。

「ねえ、馬鹿シンジ」

「何だよ」

「ミサトって本当に婚約者のことが好きみたいね」

「へぇ、そうなの?」

「寝室見た?」

「み、見てないよ!」

「なぁんだ、興味ないの?」

 興味はある。

 ただ機会がなかっただけだ。

「壁に一杯、その人の写真が貼ってあるの」

「へぇ、カッコいい人?」

「そうねぇ、カッコいいけど…」

 アスカは口篭もった。

 その後、自分が何を言おうとしたのかわからず、戸惑ってしまったからだ。

「そうだよね、ミサトさんがあんなに美人なんだから、彼氏もカッコいいのに決まってるよね」

「そいつは違うわよ!」

「はい?」

「美人の相手がイケメンとは限らないの!」

 アスカの語気の強さに、シンジは振り返った。

 彼女は空を見上げている。

 朱色に染まった入道雲を眺めていたのだ。

 その時、シンジはアスカの尖った顎のラインがとても美しいことを知った。

 しばらく足を休めてアスカの顔に見とれていたシンジである。

 浜辺の松林を抜けた場所で停まっているリヤカー。

 そのリヤカーが動いていないことにようやくアスカは気付いた。

 自分を見上げているシンジの視線。

 いやらしげなところがなく、純粋な瞳が自分を見つめている。

 彼女は動揺している自分の心を悟られないように、声を励ました。

「ちょっと!何してんのよ!さっさと歩きなさいよ。私、お腹空いた!」

「あ、ごめん。じゃ、動くよ」

 夕陽の中でアスカの頬が赤らんでいたことをシンジは知らない。

 アスカ本人も顔の火照りは暑さの所為だと思い込んでいる。

 

 

 

 その夜、加持リョウジの死がTVのニュースで報じられた。

 

 

 

 

TO BE CONTINUED

 

 


<あとがき>

 けだものシンちゃんに鈍感アスカ。アスカ親分の苦労は続きます。

 少年少女たちの野望と策略はどんどん進みます。夏は短い。がんばれ、みんな!

 しかも無意識のうちにアスカは自分を美人と認識しています。『美人の相手がイケメンとは限らないの!』 それではシンちゃんはイケメンではないということですね。ははは…。ごめんよ、シンジ君。

 で、でも、この引きは!ジュン、初のダークモードか?って、この辺で何がモチーフになっているかわかったでしょうね。ま、元々タイトルがそのまんまですし(笑)。

 では、次回、ミサト編その4で!

2003.08.6  ジュン

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